村の中学校からの帰り道、農道の途中にある弁天神社の前で兄の利一《りいち》が言った。低音だが力の込もった声だった。隣を歩いていた溝口祐二《みぞぐちゆうじ》は無言で利一を見た。ロイド眼鏡を掛けた面長の顔は強張《こわば》り、レンズ越しに見える目には刺すような光が浮かんでいた。その光を見て祐二は利一の言葉が嘘ではないことを知った。十五歳の年子の兄は本気で十一歳の末弟の殺害を決意していた。しかし祐二は驚かなかった。雷太の横暴な態度に祐二の忍耐も限界まできていたからだった。それは反抗期と言う言葉で片付くような生易しいものではなかった。 あれほど大人しかった雷太が変わり始めたのは一ヶ月ほど前、夏休みが終り二学期が始まった直後だった。 まず名前を呼んでも返事をしなくなった。ふざけているのかと思い頭をつつくと鋭い目つきで睨《にら》み返してきた。次に祐二と利一を平気で呼び捨てにするようになった。二人とも内向的で物静かな性格だったが、さすがに小学五年生に呼び捨てにされると腹が立った。しかも雷太は父親が再婚した女の連れ子であり義弟だった。さっそく利一が強い口調で注意すると「だったら俺を黙らせてみろ」と逆に挑発
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