幸福だった。 この世に生まれてからずっと、ただひたすら同じ勝負をし続けてきた気がする。 そのことが今、春海《はるみ》には、この上なく幸せなことに思えた。 気づけば四十五歳。いったいいつからこの勝負を始めていたのだろうか。 決着のときを待ちわびた気もするし、思ったよりずっと早く辿《たど》り着けた気もする。長い道のりだったことは確かだが、それがどういうものであるか振り返ることさえしてこなかった。そのせいか、勝負が始まったのは、つい昨日のことであるような思いさえする。「は&hellip&hellip春海様&hellip&hellip。い、いよいよです。こ、この日本の改暦の儀が、いよいよ決します」 泰福《やすとみ》が言った。可哀想なほど不安と緊張で震えている。声に怯《おび》えがあらわれていた 帝《みかど》から事業を拝命した陰陽師《おんみょうじ》統括たる土御門《つちみかど》家として、最も堂々と構えるべきであったが、「は、春海様の暦こそ、日本の至宝です。そ、そのことを帝もきっとお分かりのはずです」 泰福はむしろ春海にそうだと言って欲しくてたまらないような調子で口にしている。 春海は一瞬、打てる手は
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