家を出て、一人暮らしをしたいと思ったのは、ただ一人きりになりたかったからだ。自分を知る者のだれもいない見知らぬ土地へ行き、孤独《こどく》に死ぬことを切望した。大学をわざわざ実家から遠い場所に決めたのは、そういう理由からだ。生まれ故郷を捨てるような形になり、親には申し訳ない。でも、兄弟《きょうだい》がたくさんいるので、できのよくない息子《むすこ》が一人くらいいなくなったところで、心を痛めたりはしないだろう。 一人暮らしをはじめるにあたり、住居を決定しなくてはいけなかった。伯父《おじ》の所有する古い家があったので、そこを借りることにした。三月の最後の週、下見のために、その家へ伯父と二人で出かけた。 それまで伯父とは一度も話をしたことがなかった。彼の運転する車の助手席に座《すわ》り、目的の住所へ向かうが、話は弾《はず》まない。共通の話題がないという、かんたんな理由だけではない。自分には会話の才能が欠如《けつじょ》しており、だれとでもかんたんに打ち解け合うという人間ではなかった。「そこの池で、一ヶ月くらい前、大学生が溺《おぼ》れて死んだそうだよ。酔《よ》って、落ちたらしい」 伯父はそう言うと、
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