舞扇《まいおうぎ》をかさねたような七層の天守閣を背景に、二人の男は、じっと相対していた。 日が照ると、二人のからだは透明になり、雲が影をおとすと、二人の影は朦朧《もうろう》とけぶって、消えさるようにみえた。無数の目がそれをみていたが、どの目も、しだいにうすい膜がかかってきて、いくどか対象をふっと見失うような気がした。 それでも、だれひとり、目がはなせなかった。五メートルばかりはなれてむかいあった二人の男のあいだに交流するすさまじい殺気の波が、すべての人びとの視覚中枢に灼《や》きつけられていたからだ。といって、二人が白刃をかまえているわけではなかった。どちらも手ぶらであった。もし人びとが、さっきこの庭で二人がみせた、「術」に胆《きも》をうばわれなかったら、いまの殺気の光波もみえなかったかもしれぬ。 ひとりは、名を風待将監《かざまちしようげん》といった。 年は四十前後であろう。瘤々《こぶこぶ》したひたいや頬のくぼみに、赤い小さな目がひかって、おそろしく醜《みにく》い容貌をしていた。背も、せむしみたいにまるくふくらんでいたが、手足はヒョロながく、灰いろで、その尖端は異様にふくれあがっていた。
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